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1.経営者が不幸にならない資本政策
●困難だった資本政策

 会社の方は、資本の話になると、株主が入ってきて会社を乗っ取られてしまうのではないかと思ってしまうでしょう。
 これまでは株式の売買に関して強い規制がありました。これはリクルートコスモスの事件が経緯になっています。一部の人が、株を安い値段で買って高い値段で売っていたために規制されることとなったのですが、これは専門に勉強しないとわからないほど難しいものです。
 株式の売買の仕組みがわからなければ、株式公開したくても会社を乗っ取られる不安があるため、実行に移すことが難しくなります。
 それでは一体誰に相談したらいいのかというと、通常はベンチャーキャピタルしかないのです。証券会社が相談にのることもありますが、とても忙しいので大抵の場合あまり会社の面倒をみることはできません。
 ですから、資本政策を聞くとなるとベンチャーキャピタルが相手となりますが、基本的に企業とベンチャーキャピタルとの利害は対立しています。ベンチャーキャピタルは安い値段で買いたいため、悪質な場合は会社がやりたい放題にされてしまっているところもあります。また、誰にも相談できないまま、自分の会社がどうなっているのかわからないという会社もあります。
 資料に資本政策が重要なテーマとしてありましたが、今回の規制緩和でいろんな規制が撤廃になりました。そうなると専門的知識の習得が楽になっています。といっても全てがなくなったわけではなく、残っているものもあります。それは何でしょうか。



●株式売買の期間的な制約

 時間軸でみると、直前期と専門用語では言いますが、公開する日からさかのぼって直前の決算から公開までに発行された株式は、公開から半年間は売れません。株は公開するときに目論見書を作って配るのですが、いくらで売買したかをきちんと記入しなければならないので妥当な値段でなければなりません。妥当な売買ならば、公開後、半年持っていればその後の処分は自由です。


●株の所有比率と権利

株を何%持っていれば良いのかを頭に入れておかないといけません。

・一株保有
 一株しか持っていない株主でも株主代表訴訟権があります。例えば、経営者が知り合いの女性のために会社の金で別荘を買ったことが発覚し訴訟権を行使されれば、経営者は会社にそのお金を戻さなければならないのです。そのお金は株主がもらうのではなく会社がもらいます。代表訴訟は8000円位でできますが、親族間の紛争で株主代表訴訟がおこされたという話は聞いても、株式公開の過程で行われた例は聞いたことがありません。

・1%保有+6ヶ月
 次に、1%プラス6ヶ月というのがあります。少なくとも1%は6ヶ月間保有しなければなりません。これだけあれば株主に総会議案提出権が発生します。総会議案提出権とは、株主総会に議案を提案する権利です。

・3%保有
 次に3%というパーセンテージがあります。これだけあれば株主に帳簿閲覧権が発生します。これは、株主が会社に来て、きちんとやっているかどうか帳簿を見る権利です。しかし、会社としては頻繁に来られるとうっとうしい部分もあるでしょう。

・3%保有+6ヶ月
 次に3%プラス6ヶ月というのがあり、総会招集権が発生します。通常、株主総会は年に一度だけですが、株主にとって気にいらないことがあれば、株主総会を招集することができます。悪意を持った使い方もできますが、実際にはあまり聞いたことはありません。

・50%保有
 一般的に言われているのは50%です。50%を持っていると何ができるかというと、取締役、監査役などの選任ができます。社長は50%保有している株主に辞めろと言われれば辞めざるを得ません。また、会社は、株主に利益処分案の内容についてお伺いを立てなければなりませんが、株主から利益の処分について反対が出た場合にはこれに従わざるを得ません。

・2/3保有
 最後に3分の2というのがあります。3分の2を持っていると何ができるかというと、定款の変更ができます。定款には重要なことが記載されているので、称号、本店の所在地、株式の数などもその人の言いなりになってしまいます。M&Aも自由にできます。


●一般的な安定保有比率

 以上のことから、もし自分が会社をもっていたらどのぐらいを目標に維持するべきかというと50%が目安でしょう。裏を返すと自分が3分の2以上を持っていると怖いものはないということになります。3分の1以上持っていれば、めちゃくちゃなことをされることはないと言えます。それを目処に資本政策を考えていくと良いでしょう。
 それで、悪いことをする人がいるのかというと、そうしたことはあまり聞いたことがないのは確かです。嫌がらせをする人はそうそういません。ベンチャーキャピタルも株主の権利が強くないのを知っているので、保有はせいぜい10%で影響力はほとんどありません。結託するということもあまりありません。するとしたらよほど横暴な人です。
 ベンチャーキャピタルが出資するときは、出資するという以外に、決算書を見ることや役員を送り込むための発言権を維持しています。資本だけではそう簡単には変えられないのです。



●発行可能な株式数

 資本の比率を維持するのが目標ですが、何がネックになるかというと、発行できる株式の数が予め決まっていることがあります。発行している株を1,000株とすると、役員の権利によって、新たに発行できるのは4倍まで、これがある一つの制限です。
 そのなかでどういう資本政策を組むのかというテーマが出てきます。通常は株式発行が一般的です。自分で持っている株に加えてベンチャーキャピタルにも株を持ってもらいます。しかし、これを繰り返していると直に、自分の持株が半数以下になってしまうので注意が必要です。それを避けるための手段として、以下の方法があります。



●新株引受権付社債(=ワラント債)
 それは新株引受権付社債です。社長としてはベンチャーキャピタルからお金を引っ張りたい。しかし、ベンチャーキャピタルからお金を引っ張ると極端に持ち株比率が下がってしまう場合には、一旦新株引受権付社債をベンチャーキャピタルから起こすのです。それをすぐに償還する。すぐに償還しなくても良いのですが、単に資本のテクニックのために使うときはすぐに償還するのが一般的です。この権利と社債はセットになっていて、行き(発行時)は会社からベンチャーキャピタルに新株引受権と新株引受権付社債が動き、ベンチャーキャピタルから会社への帰り(償還時)のときには社債だけを償還します。
 新株引受権という権利は、新株引受権を保有している人が会社に株式を発行して欲しいと言った場合には、会社が株式を発行せざるを得ないという権利です。
これの何がうまみなのかといえば、次のとおりです。資本をベンチャーキャピタルから調達するということは会社が株式公開をするということが前提なので、株式公開時まで会社の株は上がっていくはずです。よって、株式公開直前で社長が株を買う場合、その価額はベンチャーキャピタル等に株を取得してもらう前の5万円ではなく、例えば30万円となります。しかし、当然30万円で買うのは得ではありません。
 ところが新株引受権付社債は5万円(社債発行時の株価)で株式を取得できる権利です。これは公開した後、どの段階であっても同様です。株価が100万円でも200万円のときでも、5万円で買うことができます。ベンチャーキャピタルとしては見せ金を一瞬見せるだけで取引が成立します。これが一番良く使われる資本政策上のやり方です。


●転換社債、ストックオプション
 同じようなものに転換社債やストックオプションがあります。しかし、ストックオプションは公開の規制がなくなったので、魅力が半減してしまいました


●株式分割、無額面株式
 その他にある手段で最近話題になっているのは株式分割や無額面株式というものです。
 無額面株式とは、5万円などと株式に書いていないものです。会社はどちらも発行できますが、一般的には金額を記入して発行しているものがほとんどです。しかし、無額面株式は額面株式よりも融通の利くものです。無額面株式の本質は額面株式と同じで、無額面株式だからだめと言うことはありません。
株式公開すると新規に発行しなければならない株があります。公開すると、最小ロットとして通常1,000株程度が必要です。その程度なければ売買が成立しないからです。株式の売買が日常的に行われるための最低の数字なのです。なお50円株式の場合は1,000株を一株と考えます。例えば3,000株しか会社が発行していなくて、そのうち経営者が1,500株持っている場合、公開すると更に1,000株程度放出しなければなりません。そうなると経営者の持分は、4,000株のうちの1,500株になります。このケースでは経営者にとって経営権がなくなる状況に陥ってしまいます。
 この問題を回避する方法として、無額面株式制度と株式分割を組み合わせた方法があります。

・株式分割
 株式分割は単に株式を分割するという読んで字の如くです。例えば、会社の発行済株式が3,000株で、経営者が1,800株を持っているとします。株式公開すると、公開時に最低1,000株程度発行しなければならないので、公開後の経営者の持株数は4,000株中の1,800株ということになり、経営権を失うことになります。
 ここで事前に株式分割をしたとします。分割比率を1:2とすると、分割後は6,000株中の3,600株になります。よって公開して1,000株発行しても、トータルの株式が7,000株で経営者の持株数が3,600株となり過半数を維持することができます。

・無額面株式
 株式分割には限度があります。その限度は何かというと、一株当たりの純資産額です。直前年度の貸借対照表にある資本の部を、発行している株式数で割った金額が、5万円までしか分割ができないのです。5万円とは何かというと額面金額の5万円を意味しています。無額面株式であればこの限度はありません。
なお10月以降は額面制度と無額面制度が整備され、このようなテクニックも不要になるという噂もあります。



●ベンチャーキャピタルとの付き合い方
次に、ベンチャーキャピタルとの付き合い方を話します。
 
 ベンチャーキャピタルにも、絶対に付き合ってはいけない先があります。それは裏の社会から資金を得ているところです。かなり調査をしなければわかりませんが、証券会社やベンチャーキャピタルにはブラックリストがあります。そういう先から資金調達したことがわかった場合には、残念ながら株式公開することができません。裏の社会ではありませんが、特定の会社が5%以上持っている会社は公開させないといった証券会社独自のルールもあります。
 会社とベンチャーキャピタルの利害は一致するところもありますが、基本的には対立するものと考えて慎重になった方が良いでしょう。ベンチャーキャピタルの持株比率は、公開後1年経つと半分になります。ベンチャーキャピタルは長く株を保有することはなく、2〜3年で全部売却するのが一般的です。そうしなければベンチャーキャピタルも利益が取れないので当たり前の話ではありますが・・・。よってベンチャーキャピタルの株式は最終的に知らない人のところに行くと考えて下さい。
 また、お金は集まるところに集まります。厳しい現状です。集まるところにはたくさん集まり、集まらないところには全く集まりません。日本のベンチャーキャピタルは今まで企業評価を怠ってきた経緯があるので、有名なベンチャーキャピタルが入れば良い会社に違いないと、他のベンチャーキャピタルが怒濤のようにこぞって集まるのです。
 そういう意味でもベンチャーキャピタルとの付き合いで一番重要なのは、リードインベスター、つまり最初に投資してくれる人を見つけることです。しかし融資と同じで、突然中止ということもあるので、リードインベスターは常に複数社を牽制させていかなければ危険です。
 最後に、ベンチャーキャピタルよりも提携できるような事業会社に優先的に発行するというのが良いとも言われています。

●質問;ベンチャーキャピタルのランク付けなどがあるのか。また公開されているか。
 それは聞いたことがありません。なお最近では東洋経済のベンチャー倶楽部に、ベンチャーキャピタルの特集がありました。注意すべき点は、あまり聞いたことがないベンチャーキャピタルについては、情報を多方面から入手した方が良いということぐらいです。

●質問;新株引受権付社債は、発行から償還まで最低の期間があるか。
 ないと思います。ただ1日程度おくのが一般的です。

●質問;新株引受権付社債の話でストックオプションのうまみがないのはなぜか。
 新株引受権は、従来なら公開日の直前の決算日までに本当の株式にしなければなりませんでした。しかし、これには1億円、2億円といった大金が必要なので、ほとんどの場合、経営者は銀行からお金を借りていました。でもこれは、本人にとってはリスキーなことです。今年はいけると証券会社が言ったとしても、あくまでも口約束なので、公開を延期することもありえます。株式公開は「生もの」なので、延期して1年や2年でまた公開できるかというと、なかなかできないでしょう。経営者は、1億円、2億円の負債をずっと背負っていかなければならないのです。
 ところが、今は、直前の決算日までに本当の株式にする必要がなくなりました。どこで株式に代えても良く、しかも理論上は発行済株式総数の4倍まで新規発行することが可能になっています。
 さて、ストックオプションは発行済株式の10%までしか発行できません。また、商法上は可能ですが、証券会社は、通常、社長にストックオプションを与えることを許していません。なぜかというと、ストックオプションの制度自体が社員の志気を高めるためのもので、経営者のように既に株を持っている人に、追加で株を持たせる必要はないと考えられるからです。ただし、証券会社によっても対応が異なると思いますので、主幹事証券会社に確認しながら行ってください。
 両社の間には、売却可能時期など若干の相違はなお残っていますが、それ以外はほぼ同様の取扱いになっています。

●質問:公開を後戻りできるタイミングはどうか。
 会社は、公開を延期する場合、市場の状況が悪いから延期をするとコメントしますが、ほとんどのケースは投資家がついてこないからです。よって、ブックビルディングの途中においても、公開延期が行われているのではないでしょうか。
 こういうケースで延期を一定期間以上すると、証券会社の審査、証券取引所の審査、財務局の審査が再度必要になります。また印刷をしなおさなければなりませんので、更に数ヶ月以上公開が伸びることになります。