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講演１：「今、最も活発な産学官連携地域」
○一橋大学教授　経済学博士　関満博氏
最近は島根県に入れ込んでいる。岩手の延長でもあるが非常に面白い。松山にはＮＨＫの松山放送局がありキーステーションであるが、番組を作りたいので協力して欲しいと言われた。以前、講談社から「新ものづくり企業が日本を変える」という本を出版した。担当者から平積みができないとだめだといわれ再販してくれないが、四国からはこの四国バージョンを作りたいという話があった。日本の中小企業は興味深い企業が多いが東北に多い。しかし四国も捜すと凄い中小企業がある。日亜化学もそうである。但し自治体は映像になるものがない。どこか紹介してと言われて中四国に広げて岡山の津山を紹介した。ここには作陽音楽大学があり著名な音楽家も住んでいるし、音楽が町の顔になっている。しかし、その顔を倉敷に取られてしまった。倉敷は歴史文化の都市と思われそうだが実は明治以降だ。倉敷には大学はなかったので津山の音大をとってしまった。そこで津山は産業振興に入れ込み始めた。しかし、津山は映像にならないと言われた。他を検討したがだめなので、結局どこでもよいとのことで花巻を使った。そのときなぜ西日本は駄目かという話になり、岩手はチベットだが西日本は豊かだということが結論だった。
関西の大山脈があり、関西はモンロー主義があるので踏み込めないが、そのむこうは我々の範囲だ。２年前に島根県庁から打診があり県のブレーンになれといわれた。島根は沖縄より数字ではましだが現状は駄目なので本格的に産業振興をやろうとしていた。沖縄は数字としては駄目だが実は結構豊かだ。我々は一番前と後ろに着目し、真ん中を関知しない。
研究室に会いに来た県の人と会ったが、数年前に岩手県の人とあった時と感じが似ておりこれはいけると思った。県庁内をうろうろしている県庁以外の人が居る。その男は斐川町の福間敏さんという人で年齢は５２～３歳。その男が、県は関さんを使いこなせない、使えるのはおれだけだといっているという。産業振興に相当入れ込んでいる。その男に会ってみたいと思ってアレンジしてもらい、日曜日に役場に行った。行くと人がたくさん居る。地元の経営者だった。福間さんは町の企業振興室長で地元の絶大な信頼を得ている。そのため日曜日も人が集められる。福間さんは実に熱心だ。汗だくでまるで刑事コロンボのようだった。そして、岩手県の佐藤利雄さんの弟子だと言っていた。
斐川町は、１９７０年の人口は２２０００人で、常識で考えると今の人口は１３０００人ぐらいがいいところだ。でも斐川町の２０００年の人口は２７０００人だ。増えているのだ。企業誘致のおかげだ。村田製作所があり、富士通はノートパソコンを作っており、島津製作所がある。２６社がきている。最も誘致に成功しているところだろう。雇用は６０００人を生んでいる。他に例のない町である。人事異動は行政を進める上での最大の悪影響だが、福間さんは余人を持って代え難いので変わっていない。言い換えれば出世を放棄している。誘致された企業にきくと、福間さんに攻められると駄目だと言っていた。非常に面倒見がよい。私は東の佐藤、西の福間といっている。
斐川町の用地は全部たんぼから造成している。団地を造ってからではなく来てから埋める。斐川町ではたんぼの畦道が舗装されている。こういう町があるのだ。知らなかったのが恥ずかしい。彼が斐川町の最大の貢献者で、町長は変わっても彼は変わらない。
しかし、最近彼は心配になっている。中国への流出だ。富士通はほとんど派遣だから、朝起きると消えている可能性がある。村田も危ない。大丈夫なのは島津だけか。福間さんは企業をもってきたが危ないと感じ始めている。それで、花巻のことを知り、佐藤さんに弟子入りしている。こういうことはとかく面白く伝えられるが、話によると雪の中で弟子にしてくれと土下座したと言われている。福間さんは１週間、彼の横にとにかくくっついていた。これまで有休をとって２回来たそうで、トイレの中にまでついていったと言われているが、そうしてノウハウを獲得していった。今、斐川町は誘致とインキュベーションと両方である。捜せばまだ他にもあるかも知れないが、西では飛び抜けている。本当にすばらしい。
先日、島根県庁からご注進と電話が掛かってきた。福間さんが農林に異動になっているという。町長に直談判しようと思っている。
福間さんは完璧に離れていないが、斐川の場合はＮＰＯをつくって支援センター全体を支援する形をとりやり易いようにしている。今年はゼミ合宿を中国でやる予定であったが、ＳＡＲＳの影響で向こうから断られたので斐川町でやることにした。ＮＰＯが関ゼミに仕事を発注してくれて印刷代として７０万円をつけてくれた。
岩手県の問題を見たい。整理していく。３０年この仕事をしているが、最も成功していると思う。岩手は日本のチベットで貧しかったが岩手県の努力で伸びている。出発点は北上市だ。がんばったことが成功に結びついている。
岩手県は広いが盛岡は３０万人の都市で真ん中にある。私にとって住みたい都市のひとつだ。まず山のものがおいしい。海のものも宮古が近くおいしい。近くに美人の産地もある。その南が花巻であるが、事態は北上から始まっている。
北上と花巻の間には境界線がある。要は軍事境界線だ。花巻は温泉観光があり栄えたことがあるだろうが、北上はこれまで産業が発展したことがなかった。北上は何もない状態だった。それがエネルギーになっている。町村合併で北上市になっているがネーミングも良い。初めて訪れる都市では企業のリストをもらうが、ほとんど誘致企業で、「関製作所」が北上に工場を出すとすると、盛岡工場とか、東北工場などだろうが北上のリストを見ると北上工場である。地名のひびきの良さがあるだろう。それが成功の第一歩である。
自治省は市になるときに市にする理由を出せと言うが北上市は工業化を課題にした。しかし産業がなく辺境だった。ないので団地を造らないといけない。そこで１２７㌔㎡の団地を造った。市町村は普通２０㌔㎡ぐらいだ。それに普通使えないゴミのような土地を使う。そんなところを造成して東京の企業を連れてくるが、ここは古代の遺跡が出るほどの丘を造成した。水もあり、洪水にならないような良いところだ。遺跡が出るような良い場所、駅からも遠くないところである。地元の熱意がわかる。しかし、団地を造ってもチベットだから来ない。近現代社会の教科書に朝日新聞の写真がある。「娘売ります」は北上の写真だ。そうした怒りが発展の理由だ。
３０年代、４０年代は、企業はほとんど来ていないが５０年代から変わった。日刊工業新聞の小さい記事を捜して「関製作所が３割拡大する」というような記事に注目しろと市長が言い、そこをターゲットにして訪問した。生産を拡大する場合、ひとつは既存工場の拡張で、もうひとつは工場新設である。訪問して会ってくれるのは総務課長だが３日粘って実は新工場だというとすぐに帰って行動を開始する。人間は謝金しないとがんばらない。北上は団地を増設して借金している。そして、１６０社を誘致して日本では最大の件数だ。北上の人も凄いが県庁の人の力が大きい。これまで都道府県庁はいらないのではないかと思っていたが、岩手県庁をみると凄い。相澤さんという人が居る。盛岡で飲み屋に連れて行かれて岩手は貧しい、広い。何も変わっていない。お金をドブに棄てたようなものだ。しかし、全共闘の頃を覚えているか、毛沢東語録にあるのは一点突破だ、と説得された。北上に芽が出てきたので徹底的に支援するという。人も金もつぎ込んで成功例を作ると言っていた。北上は１０万人以下の都市で最も成功した。
９２～３年頃である。ぼちぼち成功だが一点突端は成功で次は花巻だという。飲み屋も北上に行っている。花巻の佐々木さんをしょっちゅうよんで北上の成功を見せつける。そして悔しい思いをさせて反発させている。
花巻では商工会議所の講演で呼ばれた。「マムシの佐々木」と呼ばれている佐々木さんが、そのあと若手の研究会があり、部屋を取っておくから泊まりの予定で来いという。市役所、会議所、企業があつまり宴会になった。宴会が終わると部屋に付いてくる。チェックインのときにやけに広い部屋で変だなあと思ったら、さらに部屋に宴会が用意されていた。まず北上のバカやろうコールだ。北上は成功したと行っても誘致だ、自分たちは内発でやるという。一帯にはハイテク企業があるが、頭脳ではなく手足があればと言うことで組み立て工場がでた。しかし、最近は長男ばかりなので地元に帰りたがり、頭脳を持ちたがった。それが良い流れになってきたと思っていた。ところが、９０年代になると企業が中国にいくということになり地元に戻ってきた人が飲み屋で管を巻いている。そこに佐々木がやってきて、中国に行けと言われていることを聞く。小さい町なのでどこかで同級生なので知っている人がほとんどだが、それを内発型のチャンスとした。スピンアウトしろというのだ。金をかけないで倒れそうな建物をベニヤで仕切ってかれらに会社を辞めろ、ここへはいれといった。それが９５年ぐらいのことだ。自分でやれと言われても本当は大変だが、それにＩＮＳがあった。岩手大学、県、市町村が協力した。中小企業庁までだんごになってやった。そして本格的にやろうということで花巻市起業化支援センターを作った。本来は市が自力でやろうと思っていたが、国が金を出したいと言うことでもらう羽目になった。ただ、ここまでは貴方の仕事で役人が上手い。間違ってその先もやりたくなる役人がいるが危険だ、だめだと釘を刺した。そこに、Ｕターン組にいい加減な佐藤利雄がいたので同じ待遇であるとだましてつれてきた。必要なのは技術と営業の両方がわかる人で地元を愛している人、こまめに動く人だ。簡単に入れ物ができるが、そう簡単ではない。これまで１０年もつきあっているつもりだが、本当は４～５年だ。彼がインキュベートマネージャー試練の１０箇条を３箇条にまとめなおしているが、いつも明るく元気で笑顔、できないなどの否定語はつかわない、できることから取り組むなどあるが、出所はわたしだ。
福間さんはそこに弟子入りしてきた。今、日本には３２００の市町村があるが独断と偏見ではがんばっているのは３０市町村で、成果が上がっているのは１０ぐらいだ。北上市、花巻市、三鷹市、岡谷市、斐川町、長井市、秋田の本荘市など。がんばっているのは全体の１／１００だ。これを３００、１／１０だ。携帯電話も普及率が１０％までは大変だが、そのあとはすぐだ。それで日本は変わる。３００の市町村ががんばることを期待している。
日本では産学連携は厳しい。相当の志がないとできない。最後に中国の連携を紹介したい。中国の産学連携は時々出ているが、話題になるのは北京の精華大学などだ。一番できているが、しかし、大学別では精華大学ではなく審陽の東北大だ。ここが最もアジアで進んでいる。９０年代からつきあっているが、その間、９０年頃に地方財政が逼迫し、政府は大学へのお金を減らした。日本はやらないが、自分で必要な金を稼げ、何をやっても良いと言った。９１年に行ったときには大学を見学するとパソコンが１０台おいてあった。アルパインという会社と連携しているという。レベルが高いので産学連携が始まったのだ。９６年に行くと、敷地内にビルができていて東大アルバインという会社ができている。中国の日系企業で上場第１号、ソフトウェアとしても上場第１号だ。次に行くと、学校内の招待状で歓待してもらったが、明日見せたいものがあるという。翌日ＮＥＵソフトパークに連れて行かれた。ウルトラモダンな施設で別荘、マンション、ゴルフの練習場まである。一段と発展している。東方ソフトという持ち株会社をつくってＣＴスキャンを国産化している、そこでは世界のそうそうたる企業を入れており、６０００人の技術者が働いている。東方ソフトの出資者は東北大学１／３、従業員が１／３、宝山製作所が１／３だ。最近は、大連にミニ版を作り、ソフト技術者の養成所を作っている。アジアの中で最も活発にしているところだろう。
昨年、上海に行ったが、上海には上海交通大がある。交通は「コミュニケーション」だ。江沢民の出身大学である。そこに呼ばれて２年前から学制改革をしているという。中国では遅い方だが、日本は本当に生ぬるいが教授は５年の契約制に変わっている。評価は全て得点に換算する。本を書くと何点、持ちコマ数で何点、ゼミの学生数で何点とやると、最大１０倍の差が出る。そこの教授は日本語が上手いが、呼ばれたのは何の話かと聞くと、交通大には外国の学位を持っている人が３００人おり、そのうち日本に留学した人が多く１００人いるという。留学先はアメリカが多いのだが中国に戻ってこないから日本が多いという。日本は学位を取るのが大変なので１０年いるというが、東大、京大、東北大など凄い。それで、我々と日本の中小企業で国際産学連携をやらないかと言う。連携のパターンを聞くと受託研究でもジョイントベンチャーでも何でも良いという。とにかく俺たちとやろうという。日本の産学連携はどうでもよい。彼らは必死だ。風穴を開ける必要がある。中国流と日本は違う。中国では大学が事業化し、主導している。日本はゆるい産学連携で、楽しみながらやっているのでこの流れでよいだろうが、どう受け止めるのか課題の一つだ。近々ナスダックに上場するだろう。