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講演2:「起業家育成の現状 全国の状況は」
○(株)アントレプレナーセンター 代表 福島正伸氏
年間40回以上岩手に通っている。そこで、現場の起業家をどう育てるかで、岩手起業家大学の講師をしている。法政大学の清成総長からの依頼だった。
先日、プレゼンの大会をやった。大学の先生や銀行の方も参加していたが、最近では、新しいことをやりたいという方はふえた。職人さんが増えたのが特徴である。小林さんという方がきた。職人さんで技術はもっているが、それをどう生かすか、どんな技術を持っているかがわからない。セミナーでは必ず相互支援を受講生どうしでやっていただく。経営のことが何でもわかっている人はいないので、受講生同士で連携してもらっている。
どういう靴をつくったらいいかでは、履かない靴を作ろうということで作ってもらった。履かない靴だ。そこでどの靴よりも自分にあうオーダー靴を作ってもらった。家では昔からちっちゃな靴の絵がトイレにかざってあったが、それを嫁さんの誕生日にプレゼントしたいとお願いした。完璧なものを作るということであった。そこで、レストランを借りて、コーナーのテーブルを結婚記念日に予約して、そこに座ると、スポットライトをあびたうちと同じ絵がおいてあって、同じ靴がおいてあるということをやろうとした。そこで僕が驚いて、奥さんがシンデレラ役になる話をした。その靴は1回履いたがその後ははいていない。リビングのはしっこにずっと飾ってある。はかない靴になる。家族の思いを共有できるような靴を作る。
どうしてはかないのにぴったりの靴を作ることができるか。そこで、いつもはいている靴を何足かみせてくれということで、数字をチェックして、手をいれれば分かったとなった。そこでぴったりのものを作ってもらった。毎日はく靴をみせてくれとなった。記念日にお金をかけて、足の木の木型ができる。これが10万円かかる。一生の記念日に10万円の木型を作る。そうなると2万5千円で、靴が作れるようになる。木型を持っているのが小林さんで、それを記念日に作るということをしてもらった。みんながお互いに助け合ってそういう形になった。
また、ワインの会社を作りたいということで、島根でも石橋ワイナリーというところでがんばっているが、岩手県のほうでは大手企業で働いていた方々が独立してがんばっている。
また、職人希望の若い人がふえてきた。和菓子の職人など、非常に文化的なものに関心を持っている若い人が多い。そこに共感できるものがあるので取り組むという方が多い。
日本的なものを作って、海外でお店を作りたいというような方々も多い。職人志向ということで増えている。
農業関係者の方々が増えている。十穀米を食べており、それを定期的に買っているが、手に入ること自体がステータスになる。それが限定品で企業などがまとめ買いする。何個しかないということが多い。特別なお客様だけとなるとたまらない。
ニュージーランドでカボチャをつくることで、1年中流通させることをやる人もでてきている。こうした農業関係者の方々が企業家セミナーにくる。そのセミナーで知り合った方々でのネットワークを活かしてやる。自分たちの業界以外の人、違う地域のネットワークでやるようにしている。地方から東京の起業家セミナーにきて、そこでネットワークを作ろうとしている。
学生も増えてきている。彼らも敏感で大学院でも学部制がくるが、その企業家セミナーを受けたあとに、ETIC.をとおしてベンチャー企業での創業体験を見てくるということをしている。それが単位になる。そこで自分の将来、自分たちの力でいきていけるか。どんな貢献ができるかを考えている学生が増えてきている。
主婦や高齢者、特に高齢者が増えている。セミナー参加者に参加理由を聞くアンケートするとこのままでは死ねないということが出てくる。お金も時間も体力も夢もある。ただし、ないのは生き甲斐である。何もしていない中で、好きなことをやるといっても1年もゲートボールをやれば飽きる。5年も旅行すれば飽きる。残りの人生をどう生きるかということがでてくる。お金儲けという発想はない。人に喜んでいただくことをしたい。
現金で1億円あるという人もいた。ただ、1億円あってもしょうがない。苦労したいという話であった。そのさきに人に喜んでもらいたいという思いがある。苦労が楽しみに変わっているのかと思う。
NPOやSOHO、個人事業主、合名・合資会社なども復活している。確認株式会社制度で1円でも法人ができるようになった。特にNPOは、非常に増えてきている。この前も発表の3人のうち1人はNPOで創業したいということであった。社会貢献したいためである。最先端・急成長型のいままでのベンチャー企業の枠の企業群が1つある。もうひとつが、コミュニティー型、自己実現型というような普通の創業、地域の中のコミュニティビジネスという店頭公開などをめざしているものではないものもでてきた。裾野がひろがってきた。これが重要だろう。
私も23歳で創業した。就職して2日目に辞表をだしてやめてしまった。アントレプレナーを始めたが、世界大会までやった。KSPのオープニングセミナーで、世界大会をやったりした。そして、90年代には、アントレプレナー、急成長企業がわっとでてきた。3年ぐらい前までに、第3次ベンチャーブームが終わった。その流れが強かったが、高付加価値型、急成長型が強かった。地域貢献型、ネットワーク型の創業が最近は急に増えている。職人や農業関係者、主婦などさまざまであり地域に密着した企業・創業がふえてきた。この人たちの創業支援が重要だろう。
問題は、ハイテク型でも地域密着型、自己実現型にしても、どうしたら企業家が育つかである。これには悩んだ。すべての環境を整備しても起業家が見つからないということである。しかし、そもそも起業家はいないのだ。起業家は作り出すモノだと考えている。すばらしい起業家は作り出さない限りいない。これまでは、いわれたことをきちっとやるのがすばらしい人だったので、自分で考えて自分でやるという人がいなかった。作り出すしかない。
成功者の研究をしてきたが、これが難しい。創業してずっと研究してきても何故成功したかがわからない。結論はバラバラである。1割黒字のゴルフ場をしらべたら、成功の条件がわかった。180人の従業員で180名のお客様をもてなす。ポンと言うとゴルフ場の全ての人が返事をする。至る所からハイと答える。そして一番近い人が来るような会社だ。日本経営品質賞を初めてとった企業だ。兵庫県では6000円のところで全てコンピュータ管理している。全てのところがバラバラで、ある面でNo.1のものをもっていた。どんな分野でもお客様に喜んでもらうものを作ればやっていける。
どんなものをやればいいかと聞かれれば、何でもかまわないと答える。ただし、他社と同じ事をやってもだめ。成功者の真似をしても成功者にはなれない。自分たちの勝負するところを決めて、勝負していくようにする必要がある。130名全員がラーメン屋をやったとして、自分がおいしいラーメンを追求すればうまくいく。バラバラでそれぞれがほかにないものができれば成功する。
同じ業界でも何社でも同時に成功できる、ただし、それぞれに特徴を持っている。そうなるとどんな事業が成長するかは意味がない。これから伸びるというものはもうだめで、あっという間に過当競争になる。
お客さんは選んでくる時代であるので、トップの企業しか選択されない。そこではオリジナルのことをやるしかない。そうなると何でも良いとなる。何でも良いが、とことんやらないと事業が成功しない。オリジナルのビジョン・ポリシーをどこにもつかを重要視している。それぞれがどんなビジョン・夢をもっているかがある。ビジョンがないと目先の利益に振り回される。
とにかく、ビジョンのある会社は失敗しても成功してもうまくいく。ノウハウがつくれるからだ。ビジョンのない会社はノウハウができない。失敗の先にノウハウがある。あきらめずにやっていく会社は強いものができる。お客さんが感動するところまでいけば事業になる。その努力は並大抵のものではない。起業家自身の取り組む姿勢が大事になってくる。どうしたらそんな起業家が育てられるか。失敗を全てカギにしていくことだ。人を育てる概念を2つにわけている。1つが指導もう一つが育成だ。指導というのがどういうことかというと、知識・情報・問題解決の手法などを教えること。これを教えたら人が育つかがある。ただし、過去にない問題にぶちあったときにどうするかがある。解決できない問題にはいつもぶち当たる。それにどう解決して良いかがわからない状態におかれる。いままで自分の持っている知識・手法では解決できなくて、解決しないといけないことが出てくる。これが難しい。
指導で教えることはできる。ところが教える側も全ての手法を知っているわけではない。手法も誰がやるかによって変わってしまう。
トヨタのトップ営業マンで何百台も売る人もいても同じ営業所では1台も売れない人もいる。手法は同じでも大きな差がでる。手法は確率を上げる面で重要だが、これは人によって変わってしまう。そこで、育成の概念を入れた。どうしていいかわからない問題にどう取り組むか。これが考え方の問題である。
姿勢や考え方が教えることができるかがある。前にいけといったら前にいくかどうかは難しい。指導と育成を間違えて管理してしまうことがある。
管理のベースは放っておくとサボるというものであり相手を信じていない。ある大手企業の事例だが社内起業家を応援しようと全事業部に担当をおいて、全事業部の経営資源をつかってやれとやった。そうしたら、30人の支援者がいた。そこでは支援して欲しくないとなった。理由は30人に相談にいくと、こうしろああしろと管理してくる。そしてそれをやらないと後から怒られる。なんでいったとおりにやらないのだとなる。30人に管理されると何にもできなくなる。自分の部下と同じように接してしまう。調整が必要になってしまう。
管理ではなくて、育成のための支援をする。そのときにどうするかで、一言でいうと、相手をやる気にさせることをするようにした。やる気にさせるには、見せてあげれば良い。まず、支援者自身が見本になるということをやる必要がある。我々が夢をもつ、我々があきらめない。これをやる必要がある。
自分たちの車を作っている企業がある。先日ハウジュナコーポレーションが連鎖倒産した。ネットワークに入った企業を支援するということで支援して、巻き込まれて倒産した。自己破産した。経営者は自殺しようとして帰ってきて、奥さんに離婚を申し出たら奥さんは断った。それでも500社に迷惑をかけたということで奥さんの両親に離婚の話をした。すると結婚は苦楽をともにするということだということで離婚は認めませんといってもらった。そこで、はじめて家族がいるということがわかったということを話した。そこから3社作ってまえよりも忙しいが、毎日、夜9時から12時までは奥さんとの時間で、12時に奥さんが寝てからまた会社にくるということをしている。私も先日奥さんとゴルフに一緒にいったが、尽くし方は尋常ではない。キャディもこんな夫婦はみたことがない言っていた。
どうせ再起するならと、みんなが絶対無理な事業をやろうということで取り組んだ。トヨタを超そう、自己破産状態から自動車メーカーを作ろうとめざした。2年後に車を作った。全て、全国から資本を出してもらって、自動車メーカーの関係者の方々が協力してもらって、外観を作った。BMWをベースにオープンカーを作ったのだ。
それに先立ち、大手企業の方に話をきいたらぜったいやめろといわれている。3000億円ぐらいかかり、それでも車は売れないと言われた。君たちがつくっても伝説がないので売れないよと言われた。しかし、自己破産している人からできたら伝説になる。当時、力道山と石原裕次郎しか乗っていなかった車を復活させようと作った。その話だけで、みんなに勇気を与えられる。どんな人でも事業はできるがそれなりの苦労はいる。支援者も何かをつくることを一緒に体験していく。それはみんなが無理だといったもののほうがいい。創業の時の支援をやっていくのが重要である。成功しそうな人は支援してもしょうがないので、成功しそうもない人を支援していきたい。
自分以上に本気の人は育てられない。人を育てられるのは人だけだろうと思う。岩手にきて驚いたのは、人を育てる人がいたということに驚いた。ある人が経営相談にこないと、相談することがあるはずだから相談にきなさいと電話で呼び出す。保証協会まで一緒に営業にいったり事業計画書を書いてあげたりしている人がいる。
起業家支援でどこまで行政はかかわるかという話になるが、地域が活性化するまでやるということであった。また、相手に尊敬されているので、言ったことを聞いてもらえる。どんな気持ちで相手に接するかを見抜かれてしまう。本気の人の話を相手はきく。こっちの支援の姿勢が問われてしまう。本気かどうかである。
見せるということを含めて話を掘り下げると、3つのキーワードで育成に取り組んでいる。まず、みずからが見本になる。これは我々自身が夢を持つということ。また、我々自身が自立するということ。また、信頼する。そして、支援という3つのキーワードをもっている。信頼するということは、信頼できない人も受け入れるということだ。誰が来ようと信頼するということだ。あるところで事業の発表会をしたとき、いつもやる気のないご年配の男性を選んだ。いいかげんなおじさんで、毎回宿題をやってこない。いつも寝ている。発表会に出すものもできていないので、徹夜で一緒に作ろうと待っていたが来ない。夜中になっても来なかったが、朝の7時頃に来て玄関にたって驚いていた。最初の一言目が、まさかいるとは思わなかった、と言うことだ。そこで始めて信頼する気になったということだ。そこで自分の話をしてくれたが、だまされて自己破産していた。そこで人の話は聞かないことにしていたということであった。倒産してきたら、家族からはむちゃくちゃに言われたということであった。昼も働き夜も警備員などをし、1週間に1度の塾にはなんとかきていたが企画書を書く時間もなく疲れているので居眠りをする。何かしなくちゃいけない。その中で何かしないといけないということであったが何が夢だ、という気持ちになっており、話も上の空だった。結局、5時間かけて一緒にプランをつくった。何をやりたいかが決まっていない中で良いものはできなかったが、発表が一番良かった。あれほどお父さんをきらっていた娘さんと奥さんがきていた。奥さんと娘さんは手書きで発表参加者150人用に上回る200枚の名刺をお父さんのために作ってくれていた。その紙は塾のテキストの裏紙だったが、ハサミで切って作ってもってきてくれた。控え室に突然来て名刺をもらって、私はあきらめないということを話して、一番、感動を与えていた。
支援では様々な手法がある。それは、今できることをやる。支援する気持ちが大事である。お金があるときの戦略とお金が無いときも違う。ハイリスクハイリターンからノーリスクハイリターンまでその人ごとにあった戦略を作る必要がある。
そこでセミナーでは、起業家支援をやるときには、まず、自分たちの姿勢を見せることから始めている。
起業家支援セミナーは、私の体験談から話す。そして夢に向かってやっていくという話をする。そして、手法の話をする。人脈がないときにどうやっていくかなどだ。そして、事業計画・収支計画を書いてもらう。そうするといかに考えてなかったがわかる。
そして、プレゼンテーションをやってもらう。岩手起業家大学のプレゼンでは泣く方も出てくる。なぜ無理に書かせるかというと、がんばれば出来る、まわりが協力してくれるということを体験してもらうようためだ。体験はその人の真実である。
体験で力を入れているのが相互支援である。何でも経営資源を持っている起業家はいない。そこでも周りの経営資源を集めることができればできる。今は経営資源がなくてもあつめられればいい。
そこでは1日10分でも良いから周りの人のためにできることをやればいい。そこで相互支援のネットワークができてくる。
岩手で驚いたのは、起業家セミナーに財団や県の人がききにきたことである。多くはセミナーが始まると担当者1人を残して皆帰る。お金をはらうからいいという態度ではダメ。地域で企業家が育つの大事である。
地域で相互支援をして、我々がいらない地域をつくらないといけない。うちの会社がいらない社会をつくらないといけない。そこでは、支援者の志や思いが重要である。システムだけではだめだ。
同じ人がずっといるのはいいことだし、志を繋ぐ仕組みをどう作るかが重要だろう。あるレベルまでいけば、ネットワークが繋がってくる。そうなると勝手に動いていく。これは制度や仕組み以上に、仲間を増やしていくことだろう。相手が若い人でもいい。いろいろな業種、自治体・大学・事務職員など、志のネットワークを作っていくのが大事なことだろうと思っている。 |
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